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大阪高等裁判所 平成元年(ラ)93号 決定

抗告人

埜 口 峰 英

右代理人弁護士

笹 野 哲 郎

関   通 孝

松 下 宣 且

主文

原決定を取り消す。

本件を神戸地方裁判所に差し戻す。

理由

一本件抗告の趣旨及び理由は別紙記載のとおりである。

二当裁判所の判断

よって案ずるに、免責は、破産手続きの中で行われるとはいえ、誠実な破産者に対する特典として、破産財団から弁済できなかった債務につき特定のものを除き破産者の責任を免除し、もって破産者の更生を図ることを目的とするものであって、破産そのものとは制度の趣旨と効果を異にするから、破産の申立ての適法性の判断に際し将来免責の申立てがあった場合に認めうべき免責不許可事由を斟酌することは相当ではないというべきである。そして、また、債務者たる抗告人が免責不許可事由の存在することを知って破産の申立てに及んだとしても、破産申立権の濫用にあたるものではないと解される。

してみれば、これと異なる見解の下に、本件破産の申立てにつき破産申立権の濫用に当たるから不適法であるとしてこれを却下した原判決は失当である。

よって、本件抗告は理由があるから、原決定を取消し、本件を原審に差し戻すこととして、主文のとおり決定する。

別紙

抗告の趣旨

一、原決定を取消す。

二、抗告人(埜口峰英)を破産者とする。

との裁判を求める。

抗告の理由

一、原決定は、抗告人の自己申立に対し、申立人には免責不許可事由(破産法第三六六条の九第一号)があり、本件自己破産の申立は債権者を脅かす道具あるいは権利行使を妨害し断念させる道具とするもので破産申立権の濫用であるとして自己破産の申立を却下する旨決定した。

二、しかしながら、原決定は、破産法第一二六条の破産原因の解釈を誤り、破産制度と免責制度を混同するもので速やかに取消さなければならない。

三、破産法一二六条によれば、破産手続開始のための実体的要件としては①支払不能ないし②支払停止を挙げており、債務者に右事由があれば、裁判所は右破産原因がいかなる事由にもとづくものであるかなど一切要件とせず申立により決定を以て破産宣告をするとなっている。

本件破産申立事件においても、原決定は抗告人に支払不能の事実を認定しており、抗告人に破産原因が存在することは疑いの余地がない。

しかるに、原決定は、破産原因の他に「免責不許可事由」として、本来免責の段階で、審理されるべき免責不許可事由該当の有無を論じ、右事由に該当するとの認定で以って、本件自己破産申立を却下したことは全く右法の規定を無視した違法が存在することは明白である。

しかも、抗告人が自己破産の申立をしたことについて、原決定は審問期日における抗告人の態度から、「後に免責許可により負債を一挙に踏み倒すことを唯一の目的としているとしか考えられない」とか、「破産及び免責制度を債権者を脅かす道具あるいは権利行使を妨害し断念させる道具と化する態度である」とか独断と偏見で決めつけ、これを却下の理由としているが、いうまでもなく破産宣告によって債権者の取立てが法律的に不可能となることはないのだから、右のような理由を以って抗告人の破産申立てを破産申立権の濫用とすることは、まさに抗告人の破産する自由さえも奪うもので許されるべきものではない。

別紙 自己破産申立書

申立の趣旨

債務者埜口峰英を破産者とする。

との決定を求める。

申立の理由

一、申立人の経歴

申立人は、昭和五八年三月甲南大学法学部法律学科卒業後、同年四月野村証券株式会社に入社し、松山支店勤務となったが、同六一年六月に退社した。その後六一年九月神戸の株式会社南泰有限公司に入社したが、同六二年一〇月に退社し、同六三年一〇月からは佐川急便株式会社神戸支店でアルバイト勤務して今日に至っている。

二、申立人の家族及び生活状況

申立人には、昭和五八年一一月二八日婚姻した妻弘美と同人との間の長女円香(昭和六〇年七月一四日生)がいたが、申立人が後述する理由により多額の負債をかかえるようなことが原因となって同六三年四月一八日協議離婚が成立しており、申立人は現在は実父埜口治方に身を寄せている。

申立人は、現在佐川急便株式会社神戸支店でアルバイトし、月収約二〇万円を得ているが、負債の返済に追われ、生活は大変きびしい。

三、破産に至った事情

申立人は、昭和五八年四月野村証券株式会社に入社し、松山支店に配属されたが、昭和六〇年に申立人が担当する顧客五人と株式、債券の売買に関し、利益、損失折半ということで取引を開始した。ところが、右取引は会社では禁止されており、又結果的にも右取引は損害となって表れ、会社に三五〇万円、顧客に一、一〇〇万円の返済を迫られるようになり、会社も免職となった。

そのため、妻子と共に神戸に戻ったが、右負債の返済は通常の給料生活者の能力を越えるものであった。その後、前述の顧客の一人の勧めもあり、債券先物取引で以って右負債の返済にあてるべく、昭和六一年一二月より友人、知人から多額の資金を借り入れ取引を開始した。(債権先物の最低保証金は六〇〇万円)始めのうちは、取引は順調に推移していたが、次第に損失が大きくなり、(昭和六二年五月、一日で金二、〇〇〇万円の損失を出した)そのため右損失をカバーするためさらに資金が必要となるという悪循環におち入ってしまった。その結果、実父埜口治の所有する神戸市兵庫区永室町二丁目一五番地の一二の土地建物も担保に入れて資金繰りをしたが、昭和六三年六月一八日結局土地、建物もとられてしまい(金一、八八〇万円で任意売却して負債の返済に全部あてる)、最終的には莫大な負債のみが残る結果となった。

四、支払不能

申立人は別紙陳述書及び債権者一覧表記載の通り総額九三、五四二、八九五円の債務を負担するところ、その収入、財産は別紙財産目録記載のとおりであって見るべき資産は全くなく、支払不能の状態にあることは明らかである。

よって、申立の趣旨記載の決定を求める。

付属書類

一、債権者一覧表 一通

一、財産目録 一通

一、戸籍謄本 一通

一、住民票 一通

一、疎甲号証各写 一通

一、同時破産廃止上申書 一通

一、委任状 一通

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